古書店街の路地裏
埃っぽい匂いと紙の香りが混ざり合う、東京の神保町。私は迷路のような古書店街を歩いていた。目的は、長年探し求めているある初版本を見つけること。それは、私が幼い頃に読んだ絵本で、今はもう絶版になっている。
何軒もの古書店を巡り、店主と話をするうちに、日が暮れ始めた。諦めかけたその時、一匹の猫が私の足元に擦り寄ってきた。その猫は、まるで私を導くように、細い路地へと歩き出した。
猫の導き
路地を進むと、ひっそりと佇む小さな古書店が現れた。「猫の額」と書かれた看板が、薄暗い中でぼんやりと光っている。猫は、店の前で立ち止まり、私を見上げた。私は、猫に促されるように、店の扉を開けた。
店内は狭く、天井まで積み上げられた本に囲まれていた。埃っぽい匂いが鼻をつくが、どこか懐かしい。店主は、高齢の女性で、優しい笑顔で私を迎えてくれた。「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」私は、探し求めている絵本のことを話した。女性は、少し考えた後、奥の部屋へと入っていった。
失われた初版本との再会
数分後、女性は、埃を被った一冊の絵本を持って戻ってきた。それは、私が探し求めていた初版本だった。「これは、もう誰も読まなくなった絵本ですが、あなたのような人に読んでもらえて、きっと喜んでいるでしょう」女性は、そう言って、絵本を私に手渡した。
絵本を開くと、幼い頃の記憶が鮮やかに蘇ってきた。物語の内容はもちろん、紙の質感やインクの匂いまで、すべてが懐かしい。私は、まるでタイムスリップしたかのように、絵本の世界に没頭した。
絵本を買い、店を出ると、猫はもういなかった。私は、猫にお礼を言うことができなかったが、きっとどこかで私を見守ってくれているだろう。古書店街の路地裏で、私は失われた宝物と再会し、忘れかけていた大切な記憶を取り戻した。あの猫は、もしかしたら本の精だったのかもしれない。
家に帰り、温かいコーヒーを飲みながら、私は再び絵本を開いた。物語は、幼い頃に読んだ時とは違った意味を持って、私の心に響いた。古書店街の迷宮は、私にとって、宝物を見つけるための特別な場所となった。